ビタミンAの歴史
ビタミンAは世界で初めて発見されたビタミンである。1827年に科学者のProutが「タンパク質・脂質・炭水化物が生体の生育に必須であること」を発表した。しかし、後になってこれらの栄養素が全て基準値の範囲に収まっていたとしても正常に生育しない場合があるということが明らかになった。1906年にHopkinsは三大栄養素(タンパク質・脂質・炭水化物)の他に“牛乳”を与えるとマウスが正常に発育することを発見した。1915年にMcCollumとDavisはバターや卵黄などから“脂溶性”の生育必須因子を、小麦から“水溶性”の生育必須因子を分離することに成功し、それぞれfat-soluble A(脂溶性A)、water-soluble B(水溶性B)と命名した。これが後のビタミンAとビタミンBの起源となった。
ビタミンAの種類と構造
・レチナール
・レチノイン酸
ビタミンAにはアルコール型のレチノール、アルデヒド型のレチナール、カルボン酸型のレチノイン酸の3種類存在する。
性質
レチノール、レチナール、レチノイン酸は全て黄色結晶である。また、(上の構造を見てわかるように)多数の二重結合を持っているので空気・熱・光などに対して非常に不安定である。なお、エステル化したものは比較的安定である。
存在場所
ビタミンAは、動物性食品(レバーや卵黄など)に多く含まれている。食品中では、主としてレチニルエステル(レチノールがオレイン酸やパルミチン酸とエステル結合したもの)の形で存在している。
体内での動き
ビタミンAは主に小腸の上皮細胞(表面にある細胞)で吸収され、体内に取り込まれる。
吸収される時は、エステル結合が加水分解されることで遊離型レチノールとなるが、上皮細胞内で再びエステル型に変換され、キロミクロンと結合してリンパ管に移行する。キロミクロンが左鎖骨下静脈から全身循環に入った後は、トリグリセリドが各組織に移行し、キロミクロンはキロミクロンレムナントとなるが、この過程の中でレチノールはキロミクロンと結合したままであり、キロミクロンレムナントが肝臓に取り込まれる際にレチノールも一緒に肝臓に移行する。レチノールは肝臓中でレチノール結合タンパク質(RBP)と結合し、血液中に放出される。なお、過剰のレチノールはレチニルエステルの形で肝臓に貯蔵される。また、レチノールはRBPに結合した状態では水溶性を示すため、血液中で非常に安定である。
ビタミンAと光刺激
ビタミンAは網膜で視物質として働いている。
網膜は視神経の延長に存在し、光を受容して視神経を介して脳に信号を発信する役割を果たしている。網膜には桿体と錐体が存在しており、桿体は明暗の、錐体は色調の識別に関与している。ビタミンAは、桿体中で11-シス-レチナールとして存在しており、オプシンと呼ばれるタンパク質と結合している。この11-シス-レチナールとオプシンの複合体はロドプシンと呼ばれており、ロドプシンは光を受容すると0.01秒ほどでメタロドプシンⅡとなり、これが視神経に光の刺激を伝達する。刺激を伝えた後は、メタロドプシンⅡはオプシンと全トランスレチナールに分解され、全トランスレチナールは11-シス-レチナールに変換される。この時できた11-シス-レチナールは再びオプシンと結合して、ロドプシンが生成する。このサイクルが繰り返されることにより光の受容が継続的になされるわけだが、11-シス-レチナールの再生率は100%ではないので、足りなくなった分の補充が必要である。補充は血中に存在する全トランスレチナールより行われる。
欠乏症
ビタミンAの欠乏症として有名なのは以下の2つである。
・角膜乾燥症
ビタミンAが不足すると「夜盲症」という症状が見られる。夜盲症とは、暗所で目が見えなくなる症状である。人は長時間明るい場所にいた後、暗い所に移ると周りのものがほとんど見えなくなるが、しばらく時間が経つと徐々に見えるようになる。これは光の感度の上昇によるものであり、この適応のことを「暗順応」と呼ぶ。ビタミンAが不足するとロドプシンの量が減少するため、桿体による明暗の識別能力が低下する。これにより、暗順応が適切にできなくなり、暗所で目が見えない、夜盲症を発症する。
また、ビタミンAの不足により「角膜乾燥症」を発症することもある。
ビタミンAは視物質としての機能の他に「皮膚や粘膜などの上皮細胞の機能を維持する働き」も有している。従って、ビタミンAが不足すると上皮細胞の機能が低下し乾燥が起こる。上皮の中でも角膜上皮細胞に乾燥が起こったものを特に角膜乾燥症と呼んでいる。
過剰症
・吐き気
・めまい
・脱毛
・肝障害
・妊婦への影響(流産/奇形/出産障害など)
ビタミンAが過剰になると、脳脊髄圧が上昇する。これにより、激しい頭痛、吐き気、めまいなどが起こる。又、慢性的な過剰になった場合は皮膚の脱落や脱毛、肝障害なども見られる場合がある。
さらに、妊婦がビタミンAを過剰に摂取した時には、流産や奇形、出産障害などが起こる可能性がある。
ビタミンA様作用を示す物質
プロビタミンAは、生体内でビタミンAに変換され結果的にビタミンAと同じ作用を示す。プロビタミンAというのは総称で、緑黄色野菜に含まれるカロテノイド(α-カロテン,β-カロテン,γ-カロテン,β-クリプトキサンチンなど)が代表例である。